時々、不意に思い出す光景がある。
それは、雨あがりの午後だったり、夕焼けが窓ガラスに反射する瞬間だったり。
何の変哲もない景色なのに、なぜか心がふと止まる。
そんなとき、静かにあの頃のことを思い出す。
朝、窓から差し込む柔らかな光。
通学路に咲いていた名前も知らない花。
いつもより少しだけ風が強くて、制服の袖が膨らんでいた日のこと。
記憶は不確かで、ときどき曖昧だけど、なぜか匂いや音だけがはっきりと残っている。
その日々には、特別なことなんてなかった。
ただ笑ったり、ただ黙ったり、時に意味もなく落ち込んだりしていた。
けれど今思えば、それらすべてが心の深いところで、静かに光を放っている。
まるで、
過ぎ去った時間が、今もどこかで呼吸しているかのように。
あの頃の自分は、未来をまだ知らなかった。
知ろうともしていなかった。
「明日」が当たり前にやって来ると信じていたし、「今」がいつまでも続くと思っていた。
けれど、時計の針は止まらず、風景も、人の心も、少しずつ変わっていった。
気づけば、あの帰り道も、あの声も、遠いものになっていた。
それでも、ある音楽や匂いに触れたとき、
心の奥にそっと置かれた“甘い日々”が、ふわりと揺れる。
手のひらから零れ落ちたはずの時間が、ふたたび胸の中であたたかさを持つ。
そういう記憶は、もう戻ることはないけれど、消えることもない。
むしろ、忘れようとすればするほど、静かに色づいていく。
あれは、たぶん未来からの贈り物だったのかもしれない。
時間は流れ、変わり続けるけれど、あの頃の自分がくれた力が、今の自分を支えている。
今もこうして、静かな日々を大切にしているのは、あの頃の“甘い日々”が、私に教えてくれたからだと思う。
そして、これからもきっと、日々の中に小さな幸せを見つけることができる。
どんなに日常が忙しくても、あの瞬間の温もりを忘れずに、前に進むことができる。
過ぎた時間は、ただの記憶ではなく、今も私を支えている。
そのおかげで、どんな明日が訪れても、少しは勇気を持って迎えられる気がするから。
だから、これからもきっと、あの甘い日々を胸に、大切に歩んでいく。
道なき未知を歩んでいく。(文/構成:田中)
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